スーパーエンプラ概論(パート1)
古代ギリシア人は彼らの言葉であったポリメレス(polymers = 多くの部分を持つ)が今日では“ポリマー”として材料カテゴリの名称となることは想像し得なかったことでしょう。ポリマーは、モノマーと呼ばれる構成単位が多数連結してできた分子構造を有する物質として定義することができます。
ポリマーの最初の発明者が自然であり、生物であったことを忘れないでください - タンパク質、炭水化物、あなたの髪の毛、爪、そしてあなたのDNAさえもポリマーです。合成ポリマーはずっと後に登場しましたが、今日はどこにでもあり、現代生活に欠かせない役割を果たしています。
現在年間約3億トンのポリマーが製造されており、これは世界の石油とガスの消費量の約6%に相当します。ポリマーは2つのカテゴリーに分類されます - 熱硬化性と熱可塑性です。熱硬化性ポリマーは、熱または圧力を受けると硬化する粘性液体で、再び溶融することができません。アラルダイト(Araldiate®)接着剤がその一例です。本ブログのテーマである熱可塑性ポリマーは加熱されると軟化、そして溶融して成形され、一旦冷却されると硬化しますが再び溶かして、成形をすることができます。
ポリマーのカテゴリ・ピラミッド
ポリマーのカテゴリを理解するための最も簡単な方法が、ポリマーをピラミッドとして見ることです。このピラミッドは、下から上の順に以下の3層から構成されます:
- 汎用ポリマー
- エンジニアリングポリマー
- 高性能ポリマー(またはスーパーエンプラ)
汎用ポリマー
汎用ポリマーの代表格はポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)です。容易にそして大量に入手可能で、高温や極端な強度が重要ではない用途に広く使用されています。PEは、分かりやすい例ではビニール袋や包装材料などに広く使用されています。
ポリ塩化ビニル(PVC)は建設業界で広く使用されており、‘硬い用途’と‘柔らかい用途’に分かれます。前者では、窓枠や配管などが主で、後者は電気絶縁用のケーブル被覆などに使用されています。汎用ポリマーの原材料は通常石油もしくは石油の誘導体から得られ、安価に製造できます。(ただし、PVCの主な原料は塩です)
エンジニアリングポリマー
エンジニアリングポリマーは汎用ポリマーとは一線を画しており、特に機械強度や耐熱性において優れた性能を提供しますが、性能と比例して価格が高くなります。例えば、ナイロンに代表されるポリアミド類は、衣料品用のテキスタイルから食品および飲料用容器のような日用品から、家電製品から自動車部品などの工業用途など、広範囲で使用されています。
高性能ポリマー(またはスーパーエンプラ)
高性能ポリマー、あるいはスーパーエンプラはこのポリマーピラミッドの最上位に位置し、約700,000トンが流通しています。これは全合成ポリマーのわずか0.2%に相当する量です。高性能ポリマーはエンプラよりもさらに製造するのが困難であり、より複雑なモノマーから構成されているが故に一般的に高価です。しかしポリマー製造の難易度と比例して、ポリマーの性能もグッと増すことになります。
ポリエーテルエーテルケトン(PolyEtherEtherKetone = PEEK)は高性能ポリマーに属し、PAEK(ポリアリルエーテルケトン、Poly Aryl Ether Ketones)ポリマー類の一種です。 PAEKポリマー類には300種以上ありますが、商品化されているのはほんの一握りです。直鎖上芳香族PEEKポリマーは、アリール基と、エーテル、エーテルおよびケトンの連続から構成されます。PEEK(ピーク)という名前と、その超高性能の起源はこのエーテル・エーテル・ケトンの連続による構造なのです。
高性能ポリマーが重宝される理由
ポリエーテルエーテルケトン(PolyEtherEtherKetone = PEEK)は高性能ポリマーに属し、PAEK(ポリアリルエーテルケトン、Poly Aryl Ether Ketones)ポリマー類の一種です。 PAEKポリマー類には300種以上ありますが、商品化されているのはほんの一握りです。直鎖上芳香族PEEKポリマーは、アリール基と、エーテル、エーテルおよびケトンの連続から構成されます。PEEK(ピーク)という名前と、その超高性能の起源はこのエーテル・エーテル・ケトンの連続による構造なのです。
- 燃費向上
- 安全性向上
- 部品寿命の延長
- 快適性(低騒音で、スムーズな操作)
- 設計自由度の向上
- 製造コストの効率向上
>1 billion
採用例のほんの一部を紹介します: 2億台以上の自動車でVICTREX PEEKを採用したABS/ESCブレーキシステムを搭載、15,000機以上の民間航空機でVICTREX PEEK製のブラケット、クランプや防音断熱シートを搭載、10億台以上のスマホを中心とした携帯デバイスではPEEK製のフィルムが小型スピーカーに採用されています。またPEEKは人体内でも使用されており、体内インプラント用の専用グレードであるPEEK-OPTIMA™製のインプラント機器は全世界で約900万台採用されいます。
PEEKの進化は、あらゆる製品の性能向上や機能統合、生産プロセスの効率向上のさらなる飛躍の可能性を秘めています。ポリマーの語源であるポリメレスを言葉とし、また科学の礎を築いた古代ギリシア人も自分たちの功績を誇りに思っていることでしょう。
Araldite®はHuntsman Advanced Materials社の登録商標です。
著者について
ジョン・グラスミーダー、ビクトレックス社チーフ・サイエンティスト
ジョン・グラスミーダー博士はポリマー業界で25年以上の経験を持ち、研究開発、市場開拓およびビジネス・リーダーシップを歴任、英国とドイツのICI、BASF、ヘキストとシェルの合弁会社を経て2005年にビクトレックスへ入社。2010年からテクニカルディレクターを務め、2016年にチーフ・サイエンティストに就任。